カンテレをより深く知るためには、フィンランドの民俗音楽に関する知識も必要となる場合があります。
ここではフィンランドの民俗音楽の全体像をざっくり掴むべく、数回に分けて概要を紹介していきます。
#1では俯瞰図を見てみましょう。
図のとおり、フィンランドの民俗音楽は大きく4つのカテゴリーに分けることができます。
1.号泣、嘆き(泣き歌)
2.歌
3.ダンス音楽
4.器楽曲
各カテゴリーとも、古くは儀礼や祝祭に結びついた神聖なものでした。
泣き歌や伝統詩歌はフィンランドの豊かな口承伝統の一つです。
これら伝承の多くは詩の形式で語られ、口調が良く、韻を踏んでいるため覚えやすかったことが特徴です。
叙事詩、抒情詩、呪い、ことわざ、なぞなぞ、おとぎ話といった民間伝承の下地が、言語的な特徴から韻に富む独特の詩形を築き、やがて旋律を伴うルノラウル(詩歌)として発展していきます。
ルノラウルと言えば、なんといっても民族叙事詩『カレワラ(Kalevala)』の旋律が有名ですが、英雄叙事詩だけではなく、仕事の合間にうたう労働歌や子守歌、子どもたちの遊び歌などもルノラウルの旋律がベースとなっています。
やがてルノラウルの詩形を用いつつ、より洗練された歌曲が作られるようになります。
こんにち「フィンランド民謡」と呼ばれる多くの歌のほとんどが韻歌(rekilaulu)と呼ばれるもので、1700年代以降に誕生したものだと言われています。
ルノラウルに合わせて歌いステップを踏む歌謡ダンス(laulutanssi)は、単純な動作を連続させただけのシンプルなものでした。スウェーデンやロシアをとおし他地域の洗練されたダンス文化が入ってくると、より複雑な動きを楽しむようになり、ステップの数だけダンス音楽も発展していきます。
いっぽう楽器を用いた演奏では、森の資源を材料に個人で楽しむために作られたカンテレやヨウヒッコが、楽曲という概念のない時代から即興的に楽しまれていました。ヒツジやヤギなどの牧畜時には、家畜たちに合図を送るため周囲に広く強く響くホイッスルが求められ、草木や角から笛やホルンが作られました。
さまざまなダンスが各地に広まると、ダンス音楽を奏でる役が必要となります。
有志で集まった人々が村や町の祭典を盛り上げる、ペリマンニ音楽の台頭です。その場その場で求められた音楽を奏でる彼らに楽譜はご無用、ともに弾きながら習い覚えるスタイルで地域色豊かな数々の旋律を弾き継いでいます。
フィンランド全域に音楽文化・知識が根付くようになると、それぞれの楽器のための楽曲が作られ始め、娯楽としての音楽がますます発展していきます。
時代の流れの中で生まれ育まれてきた民俗音楽、その伝統的な要素を盛り込み、新たな自己表現方法として発信するコンテンポラリー・フォークミュージックの台頭は、今まさに現在進行形で起きている事象。
どんな方向に発展していくのか、はたまた想像もつかなかった方向に変化を遂げていくのか。
時代の目撃者となるべく、注視したいところです。
さて、ざっくりと紹介してきましたが、次回以降は各カテゴリーごとに詳しく見ていきましょう。
なお、#2~はカンテレ友の会会員限定となります。ご了承ください。