Yhteiset sävelet: Martti Pokelan sävellyksiä konserttikanteleelle
共有される調べ: マルッティ・ポケラのコンサートカンテレ向け作品
編著:ティモ・ヴァーナネン
印刷地:Helsinki
出版社:Sibelius-Akatemian kansanmusiikin osasto
出版年:2004年
対象:コンサートカンテレ
マルッティ・ポケラの近現代作品は、彼の音の世界を反映した独特の彩りを持ち合わせています。西洋音楽的な和音ではなく常にカンテレの音の響きを重要視し、試行錯誤しながら思いついたストーリーに自然と寄り添う音色を探究して作られました。そして作曲過程で特徴的なのは、多くの作品が奏者や教え子と共に即興的に音楽を完成させていく”共有作品”であるという事実です。
自らが考えた楽曲のテーマ素材を奏者に伝え、それを基に変奏させながらまとめ上げられたと言います。中には奏者・教え子のアイデアが多分に含まれる作品もありますが、最終的な全体決定を行うのはポケラであり、彼の作曲作品として公開されます。作品はラジオ収録用に作られることが多かったようです。
この楽譜集を編纂したのは、多くの作品をポケラとともに”共有作品”としてつくり上げ、演奏も行ったティモ・ヴァーナネン(Timo Väänänen)。ポケラ作品を知りつくした彼が解説付きで楽譜化したものです。
収められている曲は、次のとおり。
- Pour Elam / トナカイに捧ぐ
- Sonata nro 1 / ソナタ No.1
- Elegia / エレジー
- Quo? / どこへ?
掲載されている曲はすべてCD『Sonata for Kantele』に収められています。
小型・大型問わずカンテレの演奏テクニックを多様化したポケラの音楽を楽譜化するには、困難が伴います。西洋音楽の概念からはみ出したポケラの曲には、ときに楽譜に書くことが不可能なリズム、奏法もあり、楽譜に記された独特の奏法を示すマークの説明が冒頭に添えられています。
また、特に説明を必要とする箇所に関しては、個別に解説ページも設けています。
コンサートカンテレのレバーを遊ぶように自由に使い、一般的な音階とは異なるチューニングで表現された独特の音楽は、ポケラがもっとも大切にしたカンテレの豊かな残響と相まって何ともいえない不思議な世界観に包まれています。
例えば「Pour Elam(トナカイに捧ぐ)」(1992)はリズム要素を多く取り込んだポケラの最初の作品であり、かつポケラ自身以外の奏者(ティモ・ヴァーナネン)のために作曲された初めての楽曲です。同じテーマを、異なる長さ・音階・テクニックで絶えず変化させながら表現しています。カンテレ特有の残響を生かし、消音板をもちいた独特のメロディ奏法を多用しています。
コンサートカンテレでの演奏動画は見当たらなかったのですが、ラトビアのコンサートコォクレで演奏した動画がいくつか見つかりましたのでご紹介します。
こちらの動画で演奏しているのは2011年の国際カンテレコンクール 芸術音楽プロフェッショナルの部で2位を獲得したサニタ・スプルージャ(Sanita Sprūža:1989-2019)。才能豊かな彼女の演奏が忘れられません。2019年に惜しくも若干30歳の若さで亡くなりました。
同じくラトビアのコォクレによる「Quo? ( どこへ?)」の動画。サニタ・スプルージャとイエヴァ・カルニーニャ(Ieva Kalniņa)による演奏です。
ラトビアのコォクレにはカンテレにはないブリッジがあり、音は鳴らした瞬間から減衰しはじめます。そのためカンテレほどの残響はないことを書き添えておきます。その分、音量は出ますね。
楽譜集の冒頭には多くの作品をポケラとともに”共有”したティモ・ヴァーナネンとサリ・カウラネン(Sari Kauranen)への、ポケラからのメッセージが記されています。
…この招待状は、私たちの多角的な個性の輪に皆さんを導く解説書として位置づけられます。
進化過程を共有し、即興演奏が感情を刺激し合い、音符が空の風へと舞い消え、共有された調べが波の上のアビ鳥を巻き込みます。しかし終わりのないレビューは収束し、チューニングレバーを元の場所へとおさめます。
この過去の追憶が、私たちの音楽冒険から生まれた作品の一部を記譜するという動機を、サリとティモに与えました。困難をともなう作業が今終着点を迎え、残りの作品たちが順番を待っています。…
残念ながらこの楽譜集以降、ポケラ作品の楽譜化は出版されていません。今後に期待ですね。
ポケラによる挑戦的かつ先進的な楽曲、ぜひチャレンジしたいものです。
楽譜集のご購入は フィンランド民俗音楽協会, IMU-Inkoon musiikkiなどからどうぞ。
※楽曲・楽譜集のタイトル和訳は、日本カンテレ友の会による仮訳